アカルイミライ / 黒沢清

映画「アカルイミライ」を観た。

大学生の時にTHE BACK HORNがEDを歌っているからという理由で観たんだけど全然意味がわからなくて終わるときも「え、そこでおわんの!?」と思った。

時は7年位経って、それでも不思議と僕の中でこの映画のことは頭のなかから消えなかった。

もう一度観た僕は号泣していた。

何が言いたいのかわりやすいくらいに伝わってきた。

序盤

主人公の仁村雄二(オダギリジョー)と仲の良い先輩である有田守(浅野忠信)はおしぼり工場で働くフリーター。仁村が24歳、有田が27歳だった。

二人に未来はなかったんだと思う。おしぼり工場を悪く言う訳ではないけど、二人の表情はどこか穏やかではなく、上司(雇い主?)の藤原さんが有田の家に遊びに来た時も僕が先を知っているからかもしれないけど、有田の目線にはゾッとした。

また、劇中に別のキャラクターが「僕この仕事辞めます。はっきり言って将来性ないし。」と言うシーンがある。

映画の前半はそんな感じで無気力感が漂い続ける。

未来は真っ暗で、ただ何もなかった。

中盤

話は一気に動く。

「未来なんて何が起こるかわからない。突然自分ではどうしようもないことが起こり、大切な人は去っていく。」

そんなメッセージが僕の中には浮かんだ。

有田は仁村に「絶交だ。」と言ったとき、「そうだよな。そう言わざるを得ないよな。」と思った。

二人はサインを決める。「行け」と「待て」だ。有田は常に「待て」のサインを仁村に出し続けた。

仁村は「待て」のサインを受けていたからこそ「俺、ずっと待ってるから」といったんだと思う。 だからこその「絶交」だった。

仁村は自閉症スペクトラムと思われるような描かれ方をしていて、人付き合いはできなさそうだし行動が急。いつ何をしだすかわからない、言いようのない危険さを持っていた。だから「待て」なのだろう。

有田はどうだったのだろうか。有田も常に「待て」だったんじゃないかと思う。ずっとなにか起こるのを待ってきて、気がついたら27歳フリーター。そのバイトも辞める。 有田が何をしたかったのかは描かれていないけど、おそらく仁村と似たようなところがあってこれまでずっと「待って」いたんだと思う。行き着いた先は……。これはネタバレかな。

そしてついに有田から仁村に「行け」のサインが出され、物語は終盤へ。

終盤

「行け」のサインを出された仁村は有田の父のもとで働き始める。あの「はっきり言って将来性がない。」と言われたリサイクル業だ。不法投棄された冷蔵庫やラジオ、TVなんかを拾ってきて(当時法的にどうだったかはわからないけどグレーだったと思う)、洗って直して売る。あの猛獣仁村が近代的な電子部品に触れていく感じは面白い。

仁村は言われるがままに「行け」を実行して一歩踏み出したものの、有田無しではどう生きればいいのか全く分からなくなっていた。唯一の希望は有田から託された「アカクラゲ」。 劇中のアカクラゲは「見た目はフワフワと何を考えているのかわからないけど、内には人を死に至らしめる程の強い毒を持つ」ものとして描かれる。つまりは若者のメタファーだ。

仁村はすがるようにアカクラゲの餌を作って東京の川に撒く。どこかにクラゲがいるはずだと信じで餌を撒き続ける。

こんなギリギリの精神状態のままで長く要られるはずがなく、餌を作る機械の故障を気にまた仁村は回りが見えなくなる。「君はどうしてこの現実を見ようとしないんだ!」有田父のメッセージは若者全てに向けられたもののように思われた。仁村は過去にすがっていた。ただ言われるがままだった。そして逃げ出した。

逃げ出した仁村を有田父は追うも見つけられず、「あれは幻だったのかな……。」と漏らす。 仁村のことを息子のように思っているからこその激だったが、仁村には伝わらなかった。仁村は今を生きることができないままだったからだと思う。今を見ることができないからこそ、過去や未来にすがってしまう。と、「嫌われる勇気」にもあった。

ここで仁村は犯罪を犯すが、警察には見つからず、逃げる。行くところなんでどこにもなかった。どこにも居場所を作れないでいた。仁村には何もなくて、唯一自分が一歩踏み出した場所に戻ってくる。「ここにいていいでしょ……許して……。」と仁村は言い、「君達全てを、私は許す」と有田父は言う。

誰も居場所なんて無いのかもしれない。誰も未来なんて分からない。それでも「自分はここにいていい」と思えたのなら、そこから始められる。そう言っている気がした。

それから仁村は「今まで何をやっていたんでしょうね。」と言うぐらいにいきいきとしてくる。半田付けをしているシーンなんか「人類の進化や……!」ぐらいに思う。居場所を見つけて初めて、仁村に「行け」のサインが伝わった。

未来はついに見えることはないまま映画は終わる。それは誰にもわからないものだから。



『さよなら今は、また会う日まで。ここから向こうは何もない真っ白な空白』THE BACK HORN「未来」